ここ数年で、身の回りでは2段階認証が当たり前になってきたように思います*1。個人的には今まで、2段階認証が可能なサービスにはSMSとモバイルアプリを登録していました。しかしここ最近は、サービスにログインする度にIIJ SmartKeyやGoogle Authenticatorなどの認証アプリを起動して、表示された6桁の数字を入力することをめんどくさいと感じるようになりました。数字入力の手間を、Titan Security Keyではボタン押すだけで解決できそうだったので買ってみました。
Titan Security KeyはFIDO U2Fに準拠したデバイスです。FIDOには1と2のバージョンがあり、WebAuthnはFIDO2に含まれます*2。WebAuthnは後方互換によりFIDO U2F対応デバイスも利用可能なのでTitan Security Keyも使えますがパスワードレスログインはできません。
> Titan Security KeyはFIDO2に準拠したデバイスです。
— 👹秋田の猫🐱 (@ritou) 2019年9月3日
Titanの場合は正確には FIDO U2F 対応です。
WebAuthnはFIDO2対応デバイスに加え、後方互換で FIDO U2F 対応デバイスも利用できますが、PINを用いたUserVerificationなど一部利用できない機能があります。
パスワードの不要な世界はいかにして実現されるのかによると、FIDO2では以下の3要素でデバイスを分類しています。
- Transport : 接続方法
- USB
- BLE
- NFC
- ineternal
- Attachment : デバイスに直接組み込まれているかどうか
- platform(組み込み)
- cross-platform(取り外し可能)
- User Verification (UV) : 生体認証を含めた本人認証機能があるかどうか
- あり
- なし
例えばTitan Security KeyまたはApple Touch IDの場合は以下のように分類されます。
基準 | Titan Security Key | Apple Touch ID |
---|---|---|
Transport | USB or BLE | internal |
Attachment | cross-platform | platform |
User Verification | なし | あり |
対応サイト
2019年現在、2段階認証の要素にセキュリティキーがサイトは以下のどちらかに対応しているようです。
- WebAuthn (FIDO2)
- U2F, Universal 2nd Factor (FIDO1)
これらの違いは、U2Fはあくまで2段階要素に使える仕様ですが、WebAuthnはUser Verificationありのデバイスに限りユーザ名やパスワードの代用も可能になっているところのようです。上にも書いたように、WebAuthnはU2Fデバイスも利用可能です。
使い方
Titan Security KeyはUSB版とBLE版の2つ梱包されています。Googleによると普段は一つだけ使い、もう一つは安全な場所に保管することを推奨しています1。PCやMacだけで使うならUSBの方が使いやすいと思いましたが、モバイル端末でも使いたいのでBLEの方を普段使いに選びました。しかし現状、macOS 10.14ではBLEのペアリングができないので、付属のUSBケーブルでUSBデバイスとして接続する必要があります。また、iOSではSmart Lockアプリを使わなければ接続できません。以下の表は、BLE版を各プラットフォームで接続する方法です。
OS | 接続方法 | 利用可能ブラウザ |
---|---|---|
macOS | USB | FirefoxまたはChrome |
iOS | BLE+Smart Lock | Chromeのみ |
Android | BLE | FirefoxまたはChrome |
macOSで使う
macOS 10.14時点では、Safari U2FとWebAuthnどちらにも対応していません。そのためFirefoxまたはChromeを使う必要があります。また、システム環境設定のBluetoothからペアリングができないため、USBとして接続する必要があります。
- Titan Security KeyをUSBで接続する
- U2FまたはWebAuthn対応サイトで2段階認証を設定する
- 途中でボタンを押すように促されるのでTitan Security Key中央のボタンを押す(緑色に点滅し始める)
- 2段階認証でセキュリティキーが有効になる
- 再認証時に、セキュリティキーを選んでボタンを押す
USBとして接続させるためケーブルで繋げなければならない点を除いては、特に不満がありません。ブラウザからBLE機器へ接続するWeb Bluetooth APIが使えるなら事前のペアリングが不要になったりするのかなと期待しましたが、現時点でブラウザの対応状況は今ひとつのようです。
WebAuthnでBLEデバイスを使う方法によると、BlueTooth explorerを使うとBLEデバイスとしてペアリングできるそうですが、今回は試していません。
Androidで使う
利用前に、OSとデバイスの間でペアリング(鍵交換)しておく必要があります。FIDO Bluetooth Specification v1.0に、
Clients and Authenticators MUST create and use a long-term link key (LTK) and SHALL encrypt all communications. Authenticator MUST never use short term keys.
とあるのでペアリングは必須です。
- 対応サイトにログインする
- 2段階認証にセキュリティキーを使う
- ペアリングするように促されるので続ける
- Titan Security Keyのボタンを5秒間押して青い点滅になるまで待つ
- Androidからペアリングを行う
- PINコード(Titan Security Key裏面の数字)を入力する
これでペアリングが完了するので、サイトに戻ってセキュリティキー中央のボタンを押せばログインできます。次からはペアリングされた状態になっているので、ボタンを押すだけでログイン可能です。
BLEのペアリングには、SSP(Simple Secure Pairing)とPINのモードがあり、セキュリティモードで使い分けるようですが詳細は追っていません。
具体例
- ヌーラボアカウントのWebAuthn/FIDO対応をチラ見する - r-weblife
- Titan Security Key を用いてGitHubの2要素認証を試す | by Letticia | Medium
- GitHubの2要素認証がWebAuthnに対応したらしいので触ってみた - r-weblife
iOSで使う
設定アプリではTitan Security KeyとBLEペアリングできませんのでGoogle Smart Lockアプリを使う必要があります。
- Smart LockアプリでGoogleアカウントにログインする(ログインが終われば閉じても良い)
- ChromeでGoogleアカウントの2段階認証を行う
- Smart Lockアプリが起動するのでペアリングする
あとはAndroidと同じようにセキュリティキー中央のボタンを押せばログインできます。ただし、ChromeでGoogleアカウントにログインする以外の用途には(Smart Lockが反応しないので)使えません。とても残念。
Linuxで使う
試していませんが利用可能なようです。
調べたこと
どうやってセキュリティキーからデータを受け取っているか
Androidでいくつか試した限り、セキュリティキーに常時BLE接続しているわけではなさそうでした。だとすると、ブラウザがセキュリティキーを必要とした時に、OSがペアリング済みのデバイスと接続して、ボタンが押されて認証を終えたら切断しているんでしょうか。詳細はわからないけどそんな気がする...
Touch IDや指紋認証と比べてどうなの
基本的に、デバイス内部で持っている秘密鍵を取り出せるべきではありません。WebAuthnの仕様に、
In general, it is expected that a credential private key never leaves the authenticator that created it. Losing an authenticator therefore, in general, means losing all credentials bound to the lost authenticator, which could lock the user out of an account if the user has only one credential registered with the Relying Party.
とあり、秘密鍵のバックアップを可能にするよりも複数のデバイスを登録可能にするよう書かれています。
そうすると、Attachmentがplatformなデバイスは端末に紐づくため、新しい端末を購入した場合は個別に設定が必要ということでしょうか。スマホを1〜2年に1回移行するように仮定すると、その度に各サイトへログインして、新しいデバイスの設定追加が必要になるのは少し面倒な気がします。サイトが数個程度なら苦ではないけれど、GitHub, Google, Twitter, AWS, ...など非常に多いし今後も増えることが推測できるので、ユーザIDやパスワードの入力することになっても、cross-platformなセキュリティキーを使ったほうが便利かなと思いました。
セキュリティキーはいくつまでペアリング可能か
1つのセキュリティキーを何台のデバイスからペアリング可能かは分かりませんでしたが、少なくともTitan Security KeyはAndroidとiOSの2台までは確認しました。
開発
WebAuthn APIを使うときの情報。
-
Titan Security Key をセキュリティキーに使うによると「両方とも2段階認証に設定しておき、片方は安全な場所に保管しておく」が正しいようです。↩
*1:多要素認証とも呼ぶけどこの記事では2段階認証という名称を使う